専門コラム 第14話: 不調者への対応だけでは不十分なメンタルヘルス対策
突然ですが、「プレゼンティーズム」という言葉を聞いたことがおありでしょうか。職場には行けているけれど、調子が悪く100%の状態で仕事ができていないという状態です。
このような状態で働いている社員は、そもそもメンタルヘルス不調者としてカウントされていない場合も多いので、あまり気が付かれません。ですが、このような状態の社員が職場に溢れているという事態は企業の「生産性」に大きな影響を与えます。
特に高ストレス状態にあるというのに、本人でさえ気づいていないこともあり、まわりからも理解されないことも多々あります。そのため、ストレス反応が出ているにも関わらず、休養もせず、治療も受けず、職場からも配慮されず、一見、普通に仕事をしているように見えてしまうのです。
職場に出ている以上、会社は給料を支払わなければならないので、企業の負担
は変わりません。ですが、100%のパフォーマンスを発揮できていない状況な
のです。実は今、このコストが問題視されています。
そもそも調子が良くないのですから、調子が良い時と比べて、同じ仕事をする
にしても集中力の欠如から時間がかかる場合もあるはずです。ということは
この状況で残業が増える可能性もあるということ。しかも残業したからといって、100%のパフォーマンスを出せないのですから、業務の中身や完成度にも疑問や不安が残ります。
つまり、自社のメンタルヘルス対策が、明らかにメンタル不調で休職しているという社員や、復職する社員のみを対象としているのであれば不十分だということです。もちろん、休職者や復職者への対応は必須ですが、残念なことに、プレゼンティーズムの社員にまで手が回わらないのです。
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プレゼンティーズムをなくし組織を活性化する土台づくり
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一方で、「社員の心身の健康や幸福」にもっと積極的に関わろうと取り組みを始めている企業もあります。不調者だけではなく、プレゼンティーズムの状態をも改善し、さらに社員がイキイキと仕事に熱中しながら能力を十分に発揮できるような環境づくりをしようと動いています。
ストレスは常に悪いものと思われがちですが、そうとは限りません。「新しいことに挑戦する」ことで、新たな経験や知識を得ることができ、私たちを成長させてくれることもあります。逆に、「昇進した」など嬉しい、良い出来事がプレッシャーとなりストレスの原因となることもあります。
そのようなストレスへの正しい理解と、メンタル不調にならないように常日頃から社員ひとりひとりが自らのストレスに対処できるよう、会社は、ストレスマネジメントに関する正しい知識やスキルを提供するべきなのです。
ハラスメントについても同様です。厚労省が平成28年に発表した最新の「労働安全衛生調査」によると、労働者が仕事や職業生活上に関する強いストレスは、「仕事の質・量」につづき、「セクハラ・パワハラを含む対人関係」が第2位となっています。
ハラスメントについては、その根本に「職場のコミュニケーション」の課題があります。そのため、社内コミュニケーションの改善、向上がキモとなります。
まずは、実習を含んだ研修を取り入れ、正しい知識やスキルを提供すればよいのですが、定期的な研修に加え、さらに一歩進んで、研修で学んだことを職場内で実際に実践できる土台を作ることをお勧めします。実践できる場や機会を常に作っておくということです。学んだことを率先して実践した部課を社内のイベントで積極的に表彰するという会社もあります。
ですが、この土台作りはそう簡単ではありません。が、一旦出来上がれば、徐々に社内に根付き、自ら積極的に関わろうとする社員が現われるなど、時代とともに進化していきます。そのためにはまず、経営者がこの重要性に気づき、自らリーダーシップをとりつつ、社内のプロジェクトのひとつとして社員とともに作り上げればよいのです。
御社は社員のプレゼンティーズムに手を打っていますか?
今週の提言
社員がイキイキ働く職場は、プレゼンティーズムを放置しない