専門コラム パワハラ防止策として社長が知っておくべき組織風土改革の方法
第86話: パワハラ防止策として社長が知っておくべき組織風土改革の方法
イキイキ働く社員が育ち、働きがいのある職場環境づくり、活気ある組織風土づくりを専門に行っている当社には、日ごろよりメンタルヘルスやハラスメントに対する意識が高く、すでになんらかの取り組みを行っている企業の社長、経営幹部の方から様々な相談をお受けしております。
先日は、「部下を適切に指導しているのに、なんでもかんでもパワーハラスメントだと言われる風潮には憤慨しています。管理職が委縮してしまっているんですよ。指導とハラスメントの線引きは何なのでしょうね。」ある、大手企業の人材育成の責任者が嘆いていました。
今年は、スポーツ業界におけるパワーハラスメント問題が世間をにぎわせましたが、職場におけるパワーハラスメントも問題になっています。全国の労働局に相談されたパワーハラスメントやいじめ、嫌がらせの件数は、2017年度で7万件を超え、ここ10年は毎年増加しているとのこと。そんな中、いよいよ厚生労働省が職場におけるパワーハラスメントに対し、防止策作りを企業に義務付けるという方針を固めました。
このような現状で何がハラスメントなのかそうでないのかという線引き、つまり、「これは言ってはいけません。」と、管理職に通知しただけでは、もはや大した意味はないのではないかと考えます。
経営者であっても、職場の中にハラスメントのような問題の芽が出つつあることは認識していても、大変優秀で、会社に貢献してくれている社員のため、なんとなく見逃してしまっているという現状を耳にすることもあります。パワーハラスメントの加害者には、大変優秀で、自分のやり方に自信を持ち、そのやり方を部下に教えているのに何が悪いのかと考えている人も少なからずいます。つまり、良かれと思ってやっているというのです。
その根底には、上司が、「部下は自分より劣った存在であり、自分が指導しなければならない」、とか、「自分のやり方が正しい。」という考えがあるのです。「正しいやり方をしない、出来ない部下に対して、指導しているのに何が悪いのだ。」という意識を持っている限り、いくら表現方法を変えたからといって、根本解決にはならないからです。しかも世代間の価値観が大きく違っている今、「自分の時代はこれが当たり前だった。それを我慢できない若い奴らの根性がないのだ。」などという一方的な思い込みは、平成最後の今年までに終わりにしてもらいたいものです。
特にダイバーシティが叫ばれる今、これからますます人材が多様化していきます。その中で、たったひとつの凝り固まった指導方法ではなく、部下の強みを引き出し、それを活かして活用することが求められていきます。あるいは、全ての部下に対して、最も適切な指導方法を上司がひなければならないという考え方も窮屈ですし、そのような万能な上司になる必要はありません。上司が指導するのではなく、部下から「引き出して活かす」というマネジメントスタイルが必要なのです。
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パワーハラスメントに対する間違った認識も多い
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一方で、部下の方も、「叱れ慣れていない」こともあり、注意されたことが「人格を否定された」と思い込んでしまうなどの間違った認識を持っている場合も少なからずあります。遅刻したことを同僚の前で上司から注意され、ショックを受け、翌日から会社に来なくなったというびっくりするような話を聞くこともあります。
職場のパワーハラスメントは、厚労省が「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又職場環境を悪化させる行為」と定義しています。
つまり、パワーハラスメントは、本人だけではなく、多くの人が一般的に、その言動をどう受け止めたのかという客観的な基準が求められています。もともと関係がよくない上司から、業務上必要な指導をされたとします。部下本人がパワーハラスメントだと主張したとしても、その言動が「業務の適正な範囲内」であれば、必ずしもハラスメントに該当するとも言えません。
今後、パワーハラスメントの防止策が企業に義務付けられた場合、管理職に対する教育や相談窓口の設置だけでは根本解決にはほど遠いでしょう。管理職には、部下育成の新しいマネジメントスタイルを身に着けてもらう必要があり、また一般社員もパワーハラスメントに対する正しい知識と対処法を身に着けてもらうことが必要になっていくと考えます。
ただし、人間の心理として、「ハラスメント防止」として知識やスキルを学ぶというより、「現代にあった新しいマネジメントスタイルやコミュニケーションのあり方」について学ぶという方が、社員も前向きに取り組めるはずです。ハラスメント対策という枠組みではなく、組織風土改革の一環としてすでに取り組む企業が増えつつあります。
今週の提言
パワハラ防止策には、新しい視点が必要である
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